更新日:2011年1月28日
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【写真 : 心地よく整備された雑木林】
里山の林は、自然に現在の形になったものではなく、かつて人間が生活に利用するために形づくられたものです。
江戸時代よりも昔から、里山の木々は、料理や暖房のために薪(まき)や木炭として利用されてきました。
とくに、江戸時代の中ごろから鉄などの金属を加工するための火力として、里山の木々は多く使われるようになりました。
その他、シイタケなどの栽培につかう「ほだ木」を採取したり、落ち葉を集め作物の肥料を作るためにも、また山菜などの食料を得るためにも、里山は近代まで重要なものでした。
里山の木の種類は、人々が利用しやすいものに変えられてきました。
人々が利用し続けていることで、里山は美しい姿を保ち、人々の憩いの場として利用されたり、農地への野生動物の侵入を防いでいました。
同時に、農地と里山の組み合わせという環境によって、独特な野生動植物の生態系が形づくられてきました。
しかし、現代、石油など新燃料への変遷により、薪や木炭の需要が減ったことや、農山村の衰退や過疎化により、里山は放置されるようになってきました。
そのことが、里山の荒廃へとつながってきたのです。
里山にそだつ広葉樹は、根元から切り倒しても、切株から新しい芽が伸びて、ふたたび樹木へと育ちます。
このことを「萌芽(ぼうが)更新」と呼びます。スギやヒノキの針葉樹では、萌芽はあまり見られません。
放置された里山では、切株から萌芽して伸びた木々が生え放題になり、林の中は薄暗くなりました。
そこに、アズマネザサを代表とするタケ類が侵入し繁茂すると、人が歩いて入ることも困難な「藪(やぶ」になってしまい、とても憩いの場所などにはなりません。
タケ類が茂ると、他の植物が駆逐され、姿を消していきます。
生物種の数が貧弱になり、生態系が崩壊しつつあります。
里山が荒廃し、足も踏みいれられない藪になってしまうと、人の生活と里山との距離がどんどん離れていってしまいます。
人間と森林の距離が離れることは、森林を代表とする自然に対する人々の関心を失っていくことにもなります。
自然と共に存在できていることを人々が感じなくなっていくことは、文化としても大きな損失だと言えるでしょう。
また、人々が安心してくつろげる憩いの場がなくなり、複雑化する人間社会のなかで疲弊する人々の心が癒される機会も減っていることは、
大きな社会的損失と言えます。
それまで、手入れされ続けていた里山の雑木林などが育んでいた様々な生物たちも、里山の荒廃とともに姿を消していきました。
とくに、草花や昆虫の仲間の多くの種類が姿を見せなくなりました。
子供たちが大好きな、クワガタムシの仲間も、その数を減らしていると聞きます。
生態系の貧弱化は、里山の荒廃のみで起こるものもありますが、農地の荒廃(耕作放棄地の拡大)との相互作用で起こっているものが深刻です。
両生類や水棲昆虫、魚類などの種類が減少し、それらを主な食物にしている種類の鳥類も、数が少なくなっています。
手入れが行き届いていた里山は、野生哺乳類などが農地などに侵入しにくくするための、緩衝地帯となっていました。
しかし、里山の荒廃により、イノシシやツキノワグマ、ニホンザルなどの野生哺乳類が、農地に侵入しやすくなり、農作物への被害が増加しています。
ことに、かつて人が親しんでいた里山には、カキやクリ、クワなど野生哺乳類の食料になる樹木が残されていて、それらが野生動物を誘因してしまいます。
さらに、里山に人の姿が少なくなったことで、野生哺乳類が人間への警戒心を薄くし、野生哺乳類は人里まで進出する傾向が進んでいます。
なかでも、ツキノワグマなどは、農作物への被害だけではなく、人命への被害の可能性もあることから、その影響は深刻です。
人が足を踏み入れなくなった、荒廃した里山は、ゴミの不法投棄の場に選ばれやすいようです。
荒れた里山のいたるところに、粗大ゴミなどが捨てられています。
これらのゴミには、有害な化学物質などが含まれているものもあり、土壌や地下水、生物を汚染している可能性があります。
また、藪になった里山の中の道路は、人の目が届きにくく、しばしば犯罪を誘因する原因となっています。
雑木林は、様々な種類の動植物が数多く生活する、生物資源(人間にとって様々な生物は未知の可能性を持った資源です) の宝庫です。
また、雑木林も立派な森林であり、様々な森林としての公益的機能を発揮し、わたしたちの生活を守ってくれています。
経済的価値観では計れない、大きな価値があるのです。
その里山を健全に保つ最良の方法は、人々が愛着を持ち利用することなのかもしれません。
県では、市町村が実施する、藪の刈り払いを行ったり、混みあった木々を間引いたり、また里山内に歩道などを整備して、心地よい空間と森林の機能を回復するための事業を支援しています。
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